セカンドライフの落とし穴

セカンドライフの落とし穴

第10回:その早期退職ちょっと待って 〜 生活プランは大丈夫ですか?

退職金の割り増しを受けて定年を待たず退職するのが早期退職。一般的なサラリーマンが今までみたことがない割増金を含めた退職一時金額を提示され、バラ色のセカンドライフを夢見て安易に退職を決める人も多いのですが、みせかけの多額の一時金に惑わされてはいけません。何とか会社に残ることができる事情なら頑張って粘って会社に居続けるのも一案です。今回は55歳で早期退職した現在60歳のAさんの場合でお話ししましょう。

60際の年金受給までの5年間の無職期間が予想外に痛かった。退職一時金の目減りの速さに驚いたよ。


老後の最低日常生活費

生命保険文化センターの調査によれば、夫婦2人の老後に必要と考える最低日常生活費は平均22.3万円です。Aさんは現役時代かなり収入があつたので、このくらいなら預貯金と退職一時金を取り崩しながら年金を受給できる60歳まで田舎暮らしを楽しみ、60歳から年金を受給すれば何とかやりくりできると漠然と考えていました。
ところが退職後しばらくして自分の考えが甘かったことに気づきました。そして60歳で年金請求して予想以上に少ない年金額に驚きました。Aさんの主な誤算は、支出総額と収入総額を甘く試算しすぎた次の4つです。

  1. 退職後すぐに親子で新車を2台購入したこと
  2. 55歳で早期退職したが退職イコール老後と勘違いし、生活設計の基本生活費を65歳からの統計の数字で考えてしてしまったこと
    (日常生活費の予算計上のミスと、大学生の子の教育費計上を甘くみていた)
  3. 住宅ローン支払いが70歳になるまで続くこと
  4. 60歳になるまでの厚生年金の未加入期間5年が響き、60歳からの年金額と65歳からの年金額などが少ないこと

老後の生活費は月23.3万円、月20万円から25万円が31.9%と一番多い

生命保険文化センター「生活保障に関する調査」平成22年度 グラフ


Aさん (60歳・昭和24年4月2日生まれ) の失敗

5年前に早期割増退職金を含め4,000万円の一時金を受給。当時の預貯金1,000万円。
退職後の夢は、自宅に住みながら田舎暮らしも満喫したい。
妻(58歳) 専業主婦 ・子(19歳) 大学生

1.  多額の一時金に舞い上がり、新車2台購入

Aさん夫婦は、退職金4,000万円をあてにして親子用に新車2台を購入
預貯金と退職金を合わせたら退職時5,000万円の現金があり、新車2台購入代500万円を超える金額も気にしませんでした。セカンドライフスタートからサイフの紐が緩んでいた気がしますが、そのときは何も感じていないようでした。

2.  55歳で早期退職イコール老後と勘違いし、生活設計の基本生活費を65歳からの統計
     の数字でみたこと

Aさんは、早期退職イコールセカンドライフとイメージしており、統計の老後の生活費が月20万円から25万円で暮らせるなら、退職一時金と年金で何とかなると漠然と考えていましたが、現実はそう甘くありませんでした。
なぜなら、55歳から60歳になるまでの5年間Aさんは、働いていないので就労収入もなく、年金受給年齢になってないので年金収入もありません。一方、大学生の子どもがおり教育費と日常生活費を含めた支出は現役世代とほぼ同じくらい必要だったのです。退職一時金などはどんどん目減りしていきます。さすがに退職後2年くらいでAさん夫婦にもことの重大さがわかつてきたようです。それでも60歳になって年金を受給すれば少しは潤うかと期待していました。結果、60歳時の預貯金などは1,000万円くらいしか残っていません。

3.  住宅ローンの支払いが70歳になるまで続くこと

Aさんの失敗は、多額の退職一時金に惑わされ、退職後の暮らしを漠然としか意識していなかったことでしょう。本来なら収入がない期間の住宅ローンの返済の仕方も考える必要もありました。不安だけど何も対策を取らなかったつけがさらに年金の請求時に判明します。

4.  60歳で年金請求してさらにびっくり

定期便が届いていたのに、60歳から受給できる年金額をよくみていなかったAさん。
改めて厚生年金の請求時に60歳からと65歳からの年金額を試算してもらってびっくり。同伴した妻の一言でついでにAさんが亡くなった時の遺族厚生年金額の試算もしてもらいまたまたびっくり。期待したより年金額が低いのです。今更ながら早期退職の年金に与える影響の大きさに驚きました。

年金は一時的収入でなく継続的な収入だから少しでも多いのはありがたいよ


Aさんの年金加入歴 (厚生年金 平均給与40万円 総報酬制考慮せず)

●55歳で早期退職 (厚生年金32年・退職後国民年金5年)
※金額の表示はいずれも平成23年度の年額です。

55歳で早期退職した場合の図

●60歳になるまで厚生年金37年加入(仮に)

60歳になるまで厚生年金37年加入(仮に)の図

但し、試算は早期退職を言われて会社に残った場合、給与など低額になるなどのケースは考慮せず。


今だけでなく長い老後を見据えたプランニングをたてよう

55歳時かなり預貯金などがあったAさんですが、60歳時の預貯金は1,000万円ほど。60歳から65歳になるまでの年金も月10万円弱、預貯金はますます目減りし、今後の暮らしは相当厳しいでしょう。
年金受給開始年齢が68歳から70歳になる可能性があるなど、年金の将来は厳しくなるのは必至です。だからこそ、預貯金などのピークを現在のように退職時の60歳でなく、健康や本人の気持ちと相談し、可能なら就労期間を延ばして取り崩す時期と金額を少しでも遅くするのもいいでしょう。もちろん経済的に何の支障もなければ問題はありません。

それでも止むを得ず早期退職せざるを得ないときや早期退職したいときは、目先の一時金額に惑わされず、将来の支出と収入をシビアに見積もつてプランニングしましょう。
ボーナスもない、給与収入もない心細さを知っている年金受給者の妻である私から、ちょっと厳しい提案です。



執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/

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