セカンドライフの落とし穴

セカンドライフの落とし穴

第27回:家族だけで頑張り過ぎないで欲しい!
       〜親の介護で離職・退職した子に待ち受ける厳しい老後

高齢化が着実に進む中、配偶者や親の介護問題は誰もが避けて通れない問題です。年金などの相談の現場でも介護問題は私たちの暮らしにいろんな影響を与えています。

そうした介護に関する相談は、とても切なくやりきれないものが多く解決策も少ないのが大半です。相談を受けたいずれの人も皆さん善意の人ばかりです。だからこそ、現状の過酷さを何とかしたいと思う心から仕事を辞めて介護に専念してしまう人も多いのでしょう。

覚悟を決めて親の介護をしつつも介護に限界を感じたとき、介護がいつまで続くのか不安が駆け巡ります。介護が終わり時間と心にゆとりができたとき、介護をした自分たちの人生はまだまだ続くことに気づき、老後の準備を何一つしていなかったことを思い唖然とするのが一般的です。

今回は、親と子の立場から深刻な相談事例を参考に、親や配偶者などの介護が必要になったとき1人(家族)だけで頑張り過ぎないで欲しい、簡単に仕事を辞めないで欲しいというメッセージを込めてお話しします。

子の人生を犠牲にしてまで介護して欲しいと思っている親はいないと思う!全て抱え込まないで、公的サービスを上手に利用しながら介護してもいい!の発送も大切かも・・・


主な介護者は6割以上が同居している人 〜 男性が30.6%、女性が69.4%

平成22年の国民生活基礎調査によれば、主な介護者は6割以上が同居している人、内訳は配偶者が25.7%、子が20.9%、子の配偶者が15.2%。そのうち男性が30.6%、女性が69.4%と女性が圧倒的に多いのが特徴です。ちなみに配偶者の多くは妻、子は息子、子の配偶者は息子の妻が多く含まれていることが予想されます。息子が親の介護者になるケースも増えているようすが見えてきます。 子どもの数が減り、単身者も増え、結婚しても夫婦共働きが増えつつある現在、これからは親の介護は男女を問わず子がするのが当たり前になるかも知れません。

同居している主な介護者の介護時間は、要介護4以上では約半数がほとんど終日介護しています。いっときも気が抜けない介護を終日密室で行う介護の負担は相当なものでしょう。ましてやまだまだ実際に高齢期を経験していない40代、50代の働きざかりの人が、離職して密室で先の見えない親などの介護するのは大変です。しかし、現実には介護する親(主に母親)の大変さを見かねて仕事を辞めてしまう子どももいるのです。一旦仕事を辞めると再就職は中々難しい現実が待ち受けています。または、介護しやすい仕事に転職しても給与は大幅に減っています。そして、一番の問題は当事者が仕事を辞めたあといろいろ相談にくることです。

要介護者等からみた主な介護者の続柄

同居している主な介護者の介護時間(要介護者等の要介護度別)


事例1:私(80代)が亡くなったら、受給中の夫の遺族厚生年金を子(50歳)が引き継げますか?

答えは「ノー」です。厚生年金に加入していた夫の遺族年金を受給できるのは、夫死亡時生計維持関係にあった妻・子、父母、孫、祖父母です。子は原則18歳に達した年度末までの間にある子なので、夫死亡時既に30歳代だったB男さんは年金の子に該当しません。
つまりB男さんは母A子さんが受給していた夫の遺族厚生年金を引き継ぎできません。それを聞いたA子さんの落胆は見ていて気の毒でした。

 

A子さんは几帳面な人らしく持参した分厚い家計簿に生活費や日々の暮らしの記録もきちんとされています。それなりの企業に勤めていた夫の遺族厚生年金とA子さんの国民年金をあわせた年金額は月20万円超。自宅もあり1人なら充分暮らしていける金額です。夫の介護かこんなに長くなるとは思っていなかった!妻の私が亡くなっても、夫の遺族厚生年金を子が引き継げると思っていたのに・・・
但し、2年前に亡くなった夫の介護が約10年続き、自宅で介護していた母を見かねた長男B男さんが会社を退職したことが不安の始まりでした。親の年金収入などで介護費用や暮らしを維持できたことと予想以上に長かった介護期間が、母子の経済的負担と子の能力にみあった再就職の機会を失なわせたのです。

A子さんの心配は独身のB男さんのこと。かなり給与をもらっていた会社をやめ福祉の仕事についたB男さんの給与は少なく、自分が亡くなった後のB男さんの将来が不安で相談に来られたようです。
今からできることは、年金収入があるA子さんにできる限り長生きしてもらい、その間にB男さんの収入を増やすための仕事につけるよう資格を取得するなど努力と工夫が大切でしょう。

A子さん・B男さんの収入のイメージ


事例2:「母がデイサービスに行っている間、働くつもり!」と笑顔がもどった女性(40代)

母と子でずっと誰にも頼らず頑張ってきたC子さん、要介護5の60代の母を在宅で介護してきました。しかし、在宅での介護はC子さんの体力・金銭的にも限界となり、周囲のススメもあり母と子は「生活保護」を受けることに、母もデイサービスを利用することになりました。今まで、何も変化がなかった2人だけの暮らしが少しずつ変わろうとしています。

C子さんに「母がデイサービスに行っている間、働くつもり!」と小さな笑顔が戻ってきました。自分の将来も考えるゆとりが出てきたようです。福祉関係者などのアドバイスでいろんなことが具体化し始め、新しい生き方の一歩が踏み出せそうです。矛盾していますがC子さん親子は、経済的破綻が早かったので周囲の介入が早かったことが幸いしました。

いろんな人のアドバイスで心配ごとが1つ1つ解決し、母もデイサービスへ、私も仕事と楽しみが増えそうだわ。

ちなみにC子さんの年金の加入歴はありません。20代は働いていましたが国民年金に加入していませんでした。離職して母の介護を初めてからは母のわずかばかりの年金のみで暮らしてきました。生活が苦しく国民年金の保険料の納付が苦しいときは「免除制度」を利用することも可能ですが、C子さんはその制度すら知りませんでした。

生活保護を受けた期間の保険料は「法定免除」になり、年金受給資格期間に含まれます。

年金額も通常に納付した場合の2分の1受給できます。但し、将来の年金額は少ない(受給資格10年に短縮予定・平成27年10月施行予定)と予想されます。


事例3:「母の介護を20年した妹は無年金、今からでも保険料を納付できるでしょうか?」

屈託なく「親の介護をするために仕事を辞めました」という人に会うたび、2年前受けた相談を思いだします。「無年金の妹のD子の国民年金の保険料を今から納付できるでしょうか?」という姉の相談でした。

聞けば、妹D子さんが40歳代初めのとき母が倒れ、同居していたD子さんは会社を退職し以来20年母の介護をしたそうです。その母も亡くなり気づいたらD子さんは独身、年金を受給できる年齢になっていましたが、母の介護をしだしてから国民年金の保険料も途切れがちで受給資格を満たしておらず無年金。そこで心配した姉が相談に来られたと言うわけです。

幸い、妹の現状を気の毒に思った姉が、受給資格を満たすまで国民年金の保險料を納付すれば、D子さんは年金を受給できることになりました。

男性は50代・60代、女性は40代・50代の離職・転職がそれぞれ約6割を占めています。

介護・看護を理由に離職・転職した人の年齢構成割合(18年10月〜19年9月に離職・転職した人)

介護を始めたとき、まさか20年も続くとD子さんと母も予想していなかったでしょう。

40歳代はいろんな意味で可能性がいっぱいの楽しいときです。母の介護一筋に過ごしたD子さんの40歳代からの20年間を想うと何とも言葉がありません。ましてや決して楽ではないセカンドライフというより老後生活が待っている現実を思えば・・・


子どもの人生も大切にして欲しい!

いつまで続くかわからないのが介護です。確かに親の介護を完璧にできれば素晴らしいのですが、親の介護が終わっても子の人生はまだまだ続きます。親の介護をした子どもが将来生活に困る姿を、仮に親が元気だったら望まないと思います。

本当に大切なことを気軽に話せるときに、話しあっておけば良かった!イザというときって、本当に知りたいことが聞けないのね。

仕事を続けながらいろんな人の助けをいただいて介護する選択もあっていいでしょう。

在宅で一日つきっきりで介護するより、介護する人に一部でも自分の世界があった方が親に優しくなれることもあります。サービスをお金で買えばその間自分がゆったりできます。「自分で何でもやらなくちゃ」もいいですが、介護サービスを利用して他の人のお世話になればいろんな人と交わり、介護する人や介護される人も刺激があり情報も入ってきます。だからこそ改めて思うのは、他人の手を借りるためのお金や保險の備えは大切です。

いろんな人の相談を受けてつくづく思うのは、親の介護が必要になったとき自分の老後のイメージをして、「簡単に仕事を辞めないでください」と言うことです。介護される親の生き甲斐は、あなたが輝いて生き続ける姿を身近に感じていたいと思っているのですから・・・


執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/

ページの先頭へ

Copyright(C) NTT IF Corporation