セカンドライフの落とし穴

セカンドライフの落とし穴

第30回:増え続ける認知症高齢者
      〜 ますます厳しくなった人生の最期の場所選び

いろんな高齢者やその家族の相談を受ける身から感じるのは、以前に比べ判断能力の不十分な高齢者などが街に出はじめたことです。何歳になっても地域でごく普通に暮らせるのは素晴らしいことですが、高齢者を支える環境整備が追いついていない現状のトラブルも発生しています。併せて、公的年金の収入減の中、医療と介護保險の保險料と治療や介護サービスを受けた時の負担の増加で暮らしがどう変わるかなど、数字などで意識している高齢者が意外と少ないのです。今回は、人ごとではない「認知症」に関する相談事例や新聞掲載内容なども参考に、セカンドライフにおける注意点も絡めてお話しします。

とかく、この世は住みにくい!
長生きしたらしたで、寿命が伸びた分予想外のトラブルも発生!
「認知症」「お金が足りない!」「親子間の意識のずれ」など・・


国も「認知症に優しい街」づくりに乗り出しました 〜 65歳以上の認知症高齢者462万人

平均寿命が伸びれば認知症になる可能性の率が高くなることは統計でもでています。誰もが40年前後働いてきたのだから、リタイア後はゆっくり暮らしたいと考えますが、予想外の長生きで認知症になる人が増え見逃せないトラブルも増えています。

日本の社会保障はドイツの制度を参考にしています。そのドイツは認知症患者が140万人、「認知症患者への支援と在宅介護の強化」を目的にした法律(介護新調整法)が2013年に成立しています。ドイツに限らず諸外国では既に国レベルで支援をしています。一方、世界一高齢化率が高い日本の65歳以上の15%を占める認知症高齢者は462万人(2012年)、国が危機感を抱き認知症の高齢者を支援する対策に本腰を入れ始めたのは遅すぎるくらいでしょう。


年齢階層別の要介護(要支援)認定率(推計)図1


年齢階層別の要介護(要支援)認定率(推計)図2

高齢社の介護保険制度を取り巻く状況等  介護保險部会(第46回)  参考資料

※ 認知症高齢社の日常生活自立度とは、高齢社の認知症の程度を踏まえた日常生活の自立度の程度を示したものです。ランクはT〜Mの9段階に分かれ、症状が軽い方から2つ目の自立度Uは、日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意すれば自立できる状況をいいます。

厚生労働省は、認知症になってもできる限り住み慣れた地域で暮らせる社会の実現を基本目標としました。認知症になれば施設や病院に入居(入院)するこれまでのケアの流れを、以下の7つの視点で変えようというものです。しかし、現実と理想(目標)とのギャップは、以下の例が示すように、当分の間、私たちの老後に重くのしかかってきそうです。


認知症施策推進5か年(2013〜2017年までの暫定施策)プラン(オレンジプラン)の目標


7つの視点


高齢者のトラブル例

事例1

物忘れがひどく判断能力が衰えたAさん(67歳)は年金が誰かに取られてしまったと不安になり、年金の入金先の金融機関を何度も変更し、入金先の口座が自分でもわからなくなっています。

事例2

高齢の父(83歳)の運転免許の更新を辞めさせたいが自覚がなく辞めさせられない。自損事故を数え切れないほど起こしている父が事故で死亡するのは仕方ないと諦めてはいるが、いつ他人を巻き込む事故を起こすのではないかと心配する同居の娘B子さんの心配は深刻です。

では、認知症の人がトラブルを起こして死亡し周りに迷惑をかけたとき、本人に判断能力がないから損害賠償しなくていいのでしょうか。徘徊事故で家族に賠償命令がでた判決(2012.8名古屋地裁)を参考までに紹介します(読売新聞2013.8.29)。

徘徊認知症高齢者に損害賠償命令!(名古屋地裁)
他人に被害を与えれば、見守っている人に損害賠償責任がある!

事例3

91歳の認知症のCさんが線路内に入り電車と衝突して死亡し、同居していた妻と長男に対し電車が遅れた損害約720万円をJR東日本へ支払いが命じられました。見守りを怠った妻の過失と、介護サービス利用をしなかった長男の責任が問われました。できる限り在宅で過ごしたいCさんの意思をくみ取り、長男の妻もCさんの自宅近くに引っ越して家族で献身的に介護した結果です。(家族は高裁に控訴中)

一般的に、徘徊するCさんをずっと見守ることは不可能で損害賠償までは酷ではないかと思いがちですが、故意または過失であっても、他人に被害を与えれば刑事責任と民事責任を問われるのはやむを得ません(読売新聞2013.8.25都立松沢病院院長)の理論も納得です。 こうした事例をみるにつけ、在宅で認知症の人を支援するのは実際に介護する立場からすれば、余程の覚悟が必要になりそうですね。但し、この例から考えてみると、今後は介護する人だけでなく、在宅で暮らす人を支援する成年後見人などに損害賠償責任がおこる可能性もあるのかと、後見人を複数受任する身として少し心配になってきました。

事例4

妻に付き添われて来られたDさん(60歳)は、妻が相談する横でただ静かに座っています。妻のお話しからわかったことは、ハローワークで失業手当を頂いていたが、担当者から応答能力が不足しており、失業手当の受給を止めて、年金を受給する手続き※をしてくださいと言われたそうです。
Dさんはゆっくり聞かれると相手の言うことを何とか理解できるけど、いろいろ聞かれると混乱して何も答えられとは妻の弁。どんな仕事でも人と関わりが多少あるので再就職先を探すのは無理そうでした。60歳前後のDさん夫婦のこれからの大変さが伝わってきます。

※ Dさんが失業手当を受けている間、65歳前の特別支給の老齢厚生年金は支給が停止されていました。しかし、Dさんが働ける環境にない場合、年金を受給する手続きが必要となります。

若年性認知症とは、40歳から64歳に発症した初老期認知症に、18歳から39歳までに発症者若年期認知症をまとめていいます。高齢者における認知症とは異なる悩みがあります。
就労期間が短いと将来の年金額にも影響、介護期間が長くなり家族の経済的、精神・体力の負担が大きい、介護のため配偶者が働けない、若い認知症の人が入居できる施設が少ない、本人の症状を認めたくないなどで受診が遅れ社会福祉制度や障害年金などの請求も遅れがちです。


知っておきたい今後増え続ける・医療と介護の負担 
  〜 現役時代収入が高い人ほと、ゆとりのある今から備えておきたい! 

今後は、医療と介護の保険料や治療・サービスを受けたときの負担は増えるでしょう。身近なところでは、2014年度から70歳〜74歳の窓口負担が1割から2割になる予定です。これまで特例的に1割に凍結されていた患者負担割合は、2013年4月以降新たに70歳になる人から随時2割となります。

70歳〜74歳の窓口負担1割から2割のイメージ

※ 70歳以上で現役並所得者は3割負担。

厚生労働省は介護保險の介護サービスを受けたときの1割自己負担を、一定以上の収入がある人(夫婦で360万円を目安)について2割に引き上げを検討しています(2015年度)。

特別養護老人ホームや老人保健施設など介護保険施設に入居する場合の負担軽減制度の見直しも予定されています(2015年度)。少しずつ、所得と資産を含めて判断し、支払い能力に応じた負担となります。

一般的に現役時代の収入が多い人は年金額が多く、セカンドライフは悠々自適のイメージでした。しかし、これからの人は年金額が多いと単純に喜んでばかりもいられない世の中になってきました。高収入の人こそ早めの備えが必要かも知れません。ゆとりがある今なら、セカンドライフの支出を見越した預貯金・投資・保險などで備えも可能です。


執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)、『認知症マネー まるわかりガイド』(相続・後見マネー塾 (共著) アールズ出版)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/

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