セカンドライフの落とし穴

セカンドライフの落とし穴

第39回:人ごとではない40代・50代の危機
       〜 親の介護と仕事の両立の難しさ

先日、私が住む都内T市の高齢支援課が主催する印象深いセミナーを受講しました。 今、仕事と介護の両立が難しく仕事を辞める(介護離職)をする人が増加しているそうです。 いつ誰にでも起こる可能性のある親の介護に備え、少しでも早くから、現状と支援策を知って欲しいという願いを込めて開催されたようです。セミナータイトルは、ズバリ

「 離職(やめ)ない選択! 介護と仕事の両立 〜 介護離職の実情と課題 〜 」

講師とパネラーは介護記事を書いている若い新聞記者、介護経験者、実際に高齢者に接している病院のケアマネジャー、勤労者の実態を知る企業の人事担当者。会場から介護経験者である配偶者や子の体験などの質問・感想など本音ベースのことばをお聞きすることができました。超スピードで進む高齢化のひずみは、高齢者本人だけでなく、家族の今と将来にまで浸透し深刻化していることを改めて知らされました。今回は、離職(やめ)ない選択をテーマに私が関係したことや、受けている相談事例なども踏まえ介護する子や配偶者の立場からお話しします。

仕事も軌道にのり、子どもも成長し楽しみだけど・・・気がつけば私も40代・50代。当然に親も立派な高齢者。今から、親の介護と自分の将来に備えておく必要がありそう!


介護の理由による離職の増加

少し前まで女性が離職する理由は、結婚・出産・育児によるものが大半でした。しかし、共働き世帯も増え、超高齢社会の現在、企業の考え方や離職理由にも少しずつ変化が現れ始めています。働き手の減少から、仕事の経験を積んだ女性に少しでも長く働いてもらえるよう企業でもワーク・ライフ・バランスの実現に注目した情報を発信し始めています。あわせて少子高齢化の進展、未婚率の増加など世の環境の変化から、これからは女性・男性に関わらず介護による離職の増加も無視できません。

平成24年度の厚生労働省の統計によれば、自分で親の介護を担っている割合は、男性14.4%・女性10.7%、年代別にみると40代で9.8%、50代で15.4%と働き盛りの40代・50代に集中しています。配偶者の有無の違いでみると、「介護を担っている割合」は、男性で配偶者有り12.2%、偶者なしは20.6%。女性で配偶者有りは12.3%、配偶者なしは9.3%と男性と逆転しています。


【就労者】男女別介護状況

【勤労者】男女別介護状況

【就労者】年代別介護状況

【勤労者】年代別介護状況

※「仕事と介護の両立に関する勤労者のアンケート調査」  厚生労働省24年度 委託調査

【配偶者の有無別介護状況の違い】

「仕事と介護の両立に関する勤労者のアンケート調査」  厚生労働省24年度 委託調査

※「仕事と介護の両立に関する勤労者のアンケート調査」  厚生労働省24年度 委託調査(対象者は40代〜50代)

未婚者や単身者の増加で、介護する人は妻(女性)と限らなくなりました。人々の考え方も多様化し、介護する親は配偶者の親も含め4人から、自分の両親をイメージする人も増えています。本人の介護に必要なお金の工面と、介護する人の生活・これからの人生もかかっており、たてまえ的感情論だけで解決する問題でもないのか介護です。育児と異なり、終わりが見えないのも介護者の苦しさと不安が募るところです。時代が変わったとはいえ、介護問題は積極的に明るく話せる話題ではなく、介護する親や福祉関係者など限られた人との接触しかない中一人で悩む介護者も多く、情報が入ってくることも少なく利用できるサービスを見落としがちです。

【介護者が自分で介護している父母との関係】

介護者が自分で介護している父母との関係

※「仕事と介護の両立に関する勤労者のアンケート調査」  厚生労働省24年度 委託調査


2007年・2017年、2022年問題


1947年〜1949年(昭和22年〜24年)生まれの約800万人とも言われる団塊の世代が、よくも悪くも日本の社会を動かしてきました。団塊の世代が60歳に突入し年金を受給し始めた2007年、人口が減ると予想される将来、団塊の世代が医療と介護の恩恵を受ける割合が増える70歳・75歳に突入する2017年・2022年の危機を避けるために国もいろいろ政策を掲げています。まさにそれは1971〜1974年(昭和46年〜49年)生まれの600万人弱とも言われる団塊ジュニア世代が介護に直面する年でもあります。今回の市のセミナーで、一部ですが企業も折角の戦力として養成してきた人材を介護で退職させたくないと動き初めていることを知り心強い限りです。

年齢別・介護認定者数 ( )内は、第1号被保険者に対する割合
  要支援 要介護 第1号被保険者
65歳〜74歳未満 213千人(3.9%) 473千人(8.67%) 5,457千人
75歳以上 1,282千人(23.5%) 3,489千人(63.9%)

※介護保険事業状況報告 平成24年度


両立が大変な理由 〜 敷居は高い


働きながら介護をするのは相当覚悟がいります。参加者がつぶやいた「感情だけで介護問題を片付けて欲しくない」のことばが重く伝わりました。両立が大変な主な理由は、

(1) 勤め先の介護に関する環境 (2)介護者の仕事内容 (3)地域の行政の方針と施設整備などの環境 (4)家族間の協力度、そして(5)お金です。特にお金の負担は予想以上です。

【離職後の変化】

離職後の変化

※「仕事と介護の両立に関する勤労者のアンケート調査」  厚生労働省24年度 委託調査


事例1. 年金知識の不足

ご存知のように厚生年金や共済年金の年金額は、在職中の報酬などと加入月数で決まります。退職が早いとその分将来の年金額は少なくなります。親が存命中は親の年金と自分の退職金を取り崩しながら暮らせても、イザ一人になり自分の将来を考えるゆとりができたとき、初めて知るのが「自分の年金の重み」です。この先年金はあまり増えることは期待できません。退職時期が早い分退職金の取崩額も多く、介護期間が長くなるほど支出も増えます。せめて、早期退職したときと今後働き続けたと仮定した年金額の試算をし、未来の収入のイメージをしておきましょう。併せて、親が生存中受給できる年金額、自分が働き続けたら受け取れる給与など、親の介護中の支出などいろんなシュミレーションを時系列に表にするとよいでしょう。

事例2. 介護する人が倒れることもある

親を介護する子というと子は元気のイメージですが、病気やケガは年齢順に訪れるとは限りません。在宅で介護している親の判断能力が不十分な場合、子が手術などで入院などしたら、止むを得ず親を施設に入所せざるを得ません。親の施設代と子の入院費がダブルで必要になります。
一方、親が施設に入所の場合、施設側から親の「延命治療の意思の有無」を聞かれます。但し、子の病状が重いときは、逆に子の「延命治療の意思の有無」を聞かれます。
私が住む都内T市の場合、延命治療をしないなら施設の医師が緩やかに最期まで治療してくださるとのこと。延命治療するならT市指定の病院に即運ばれ治療が続くとのことです。
そのとき慌てないために、日頃から「延命治療したい・しない」などさり気なく話し合って意思の確認もしておくことも大切です。高齢期の病状などは予想外に変化が早いからです。
介護には、「お金の備え」と「心の準備」と「親子や夫婦など家族の交流の大切さの気づきは早すぎることはない」が、高齢者の支援をしている私の実感です。

事例3. 度重なる施設からの電話の呼び出し

働く人が親を在宅や施設で介護する場合で困ることの1つは、病院や施設で対応が異なりますが、担当者から有無を言わせない呼び出しがあることがあります。例えば、本人が施設に入所している場合、転倒で転びまたは病状が悪くなり、または検査で病院に行く場合など急なアクシデントのときなど、何度も職場に電話がかかってきたりすると、せっかくの職場を退職せざるを得ないケースもありそうです。いきなり、日時を指定した呼び出しがかかり、即対応できる人ばかりではありません。ぎりぎりの状態で親(配偶者)の介護をしている子(配偶者)などにも、収入を得るための仕事や生活があることの理解が足りない気がするのです。病院や施設で働く人への教育も必要と感じています。あわせて、これからは、介護をしながら働く人に対する職場の理解がある会社づくりが、人材不足が叫ばれる今、働きたい職場を決めるポイントになりそうですね。


 度重なる施設からの電話の呼び出しなどで、もう少し働きたかったけど職場に居づらくなって退職に。職場の目、書類の山の机、電話のベルが怖い・・


【介護を機に仕事を辞めたときの就業継続意向】 〜 もう少し働き続けたかった

介護を機に仕事を辞めたときの就業継続意向

※「仕事と介護の両立に関する勤労者のアンケート調査」  厚生労働省24年度 委託調査


気軽に話あえる会があればいい 〜 家庭・地域・職場で

今回のセミナーに参加して身をのりだして一言も聞き漏らすまいとして耳を傾けたのは、受講した方の率直な意見や感想でした。実際の体験者のお話しは心にしみました。私も、判断能力が不十分な人を病院・施設・在宅などに、定期的に訪問し現場の職員の実態を身近にみているので思わず頷くことも多くありました。家族でなくても同じ悩みがあることに気が付き、いろんな人のお話しを伺うだけでも少しすっきりしました。まさに介護というタブーを常識にする雰囲気が少しずつ広がりつつあると実感しました。気軽に話せる相手があり、話しているうちに情報収集ができれば、大変な介護もゆるやかに続けられることもありそうです。

最期に高齢者などから多い「どこに相談したらいいの?」という質問に対しては、地域の「地域包括支援センター」に相談するといいでしょう。

仕事と介護の両立モデル  介護離職を防ぐために (26年3月発行)今回省いた法律的なことの参考として、厚生労働省が委託し、
みずほ情報総研株式会社社会コンサルティング部が作成した以下の冊子をご紹介します。

≪参考サイト≫
 ≫ 厚生労働省 平成25年度 仕事と介護の両立支援事業仕事と介護の両立モデル 介護離職を防ぐために(26年3月発行)


執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)、『認知症マネー まるわかりガイド』(相続・後見マネー塾 (共著) アールズ出版)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/

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